【完全ガイド】甲状腺機能低下症とリハビリ|理学療法士のための基礎知識と臨床ポイント

甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)は、臨床現場で遭遇することのある代表的な内分泌疾患のひとつです。
心疾患や整形外科疾患に比べると遭遇頻度は低いかもしれませんが、入院・外来リハビリの場面で 「なんとなく疲れやすい」「筋力が出ない」 という患者さんの背景に潜んでいることがあります。
この記事では「甲状腺機能低下 リハビリ」というキーワードで検索する方のニーズに応えながら、疾患の概要・症状・検査・薬剤治療・リハビリの進め方・新人理学療法士が臨床で押さえるべきポイントを体系的に解説します。
甲状腺機能低下症とは?
甲状腺ホルモンの役割
甲状腺ホルモン(T3:トリヨードサイロニン、T4:サイロキシン)は、基礎代謝・心機能・筋肉・神経機能の調整 に大きな役割を果たします。これが不足すると、全身の代謝が低下し、多様な症状が現れます。
主な原因
- 橋本病(慢性甲状腺炎):自己免疫疾患で最も多い
- 甲状腺摘出後や放射線治療後
- 薬剤性(抗甲状腺薬、リチウムなど)
- 下垂体疾患による二次性甲状腺機能低下症
症状
- 全身症状:倦怠感、易疲労感、体重増加、寒がり
- 筋・運動器症状:筋力低下、筋痛、動作緩慢
- 循環器症状:徐脈、低血圧、心膜液貯留
- 精神・神経症状:抑うつ、集中力低下、眠気
- その他:浮腫、便秘、乾燥肌、脱毛
リハビリ現場では 「疲れやすさ」「筋力が出ない」「動きが鈍い」 といった形で現れることが多いのが特徴です。
甲状腺機能低下症に関連する検査
血液検査
- TSH(甲状腺刺激ホルモン):高値(一次性の場合)
- FT4(遊離サイロキシン)、FT3(遊離トリヨードサイロニン):低値
- 抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体:橋本病の診断に有用
→ PTとして「どの値が安定していれば運動が進めやすいか」を理解しておくと臨床で安心感があります。
心機能検査
- 心電図:徐脈、低電位QRS、QT延長
- 心エコー:心膜液貯留や心収縮力低下の有無
- BNP:心不全との鑑別
→ 運動耐容能が低い背景に「ホルモン不足」なのか「心不全」なのかを見極める必要があります。
薬剤治療(内科的管理)
甲状腺ホルモン補充療法
- レボチロキシンナトリウム(チラーヂンS®)
もっとも標準的な治療薬。T4を補充して体内でT3に変換される。
→ 効果が出るまで数週間〜数か月かかり、薬の調整中は倦怠感や運動耐容能が変動します。
その他の治療
- 重度の粘液水腫性昏睡ではステロイド投与や循環管理が必要
- 心不全合併時は利尿薬、精神症状が強い場合は抗うつ薬などが追加されることもある
リハビリでみられる特徴
甲状腺機能低下症の患者さんにリハビリを行う際、以下の特徴を押さえておきましょう。
- 運動耐容能の低下:歩行距離が短く、疲労感が強い
- 筋力低下:特に近位筋(大腿四頭筋や股関節周囲筋)が弱い
- 関節可動域制限:浮腫や活動性低下による硬さ
- 精神面の影響:抑うつ傾向で意欲低下
リハビリの進め方(新人PT向けポイント)
評価
- バイタルサイン(徐脈・低血圧をチェック)
- 6分間歩行距離(6MWD)、Borgスケールで耐久性を測定
- 近位筋を中心に筋力評価
- 倦怠感や疲労度を主観的に聴取
運動療法
- 低強度から開始:Borg 11程度(楽〜ややきつい)
- 有酸素運動:歩行、自転車エルゴメータ(短時間・低強度)
- レジスタンストレーニング:低負荷・高回数で筋持久力を狙う
- 柔軟体操:関節可動域を維持し、浮腫や動作制限を予防
生活指導
- 適度な休憩を挟みながら進める
- 管理栄養士と連携して食事指導
- 抑うつ傾向には声かけやモチベーション支援が重要
リスク管理
- 粘液水腫性昏睡:重症時は低体温・低血圧・意識障害を伴い、救急対応が必要
- 心機能低下:心不全・徐脈に注意
- 薬剤の副作用:レボチロキシンの過量で甲状腺機能亢進症(頻脈・動悸・不眠)様症状が出る
→ リハビリ中に動悸・強い息切れ・倦怠感が出たら即中止。主治医へ報告。
理学療法士へのアドバイス
甲状腺機能低下症は、薬で改善が見込める疾患です。
リハビリでは「すぐに筋力・持久力が上がらない」ことに焦らず、低強度でコツコツ継続する姿勢 が重要です。
- 記録の徹底:バイタル・Borg・歩行距離を記録する
- 多職種連携:内科医、看護師、栄養士、精神科医との情報共有
- 生活支援の視点:ADL維持や転倒予防を優先
よくある質問(Q&A)
Q1. 運動はしてもいいの?
→ 内科的に安定していればむしろ推奨されます。主治医の許可を確認しつつ進めましょう。
Q2. 心不全とどう見分けるの?
→ 倦怠感は似ていますが、甲状腺機能低下症では血液検査(TSH・FT4)で診断されます。心不全はBNPや心エコーが参考になります。
Q3. 筋トレは効果がある?
→ 有効です。特に大腿四頭筋や股関節周囲筋を鍛えると歩行・立ち上がり動作が改善します。
まとめ

- 甲状腺機能低下症は 全身代謝の低下による倦怠感・筋力低下・運動耐容能低下 が特徴。
- 診断には 血液検査(TSH・FT4) が必須で、心電図や心エコーで心機能も確認される。
- 薬物治療は レボチロキシン(チラーヂンS®) が第一選択。
- リハビリでは 低強度から段階的に 進め、倦怠感やバイタルをこまめにチェックする。
- 新人理学療法士は「焦らず継続」「記録と連携」を意識して介入することが大切。
免責事項
本記事は新人理学療法士向けの教育的解説であり、医師の診断や治療に代わるものではありません。実際のリハビリ介入は、必ず主治医・多職種チームと連携し、最新のガイドラインに基づいて行ってください。