横紋筋融解症について【リハビリのポイントや注意点】

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横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)は、筋肉が破壊され、その中の成分が血液中に流れだす疾患です。
これにより、筋肉の痛みやこわばり、しびれ、筋力低下などの症状が現れます。
また、筋肉の成分が血液中に流れ出すことで、腎臓に負担がかかり、急性腎不全を引き起こすこともあります。
この記事で学べること
- 横紋筋融解症の病態生理と理学療法評価のキーポイント
- CK値など検査データを踏まえたリスク管理と運動療法の進め方
- 時期別(急性期~回復期)のリハビリテーションプログラム立案の考え方
- 再発予防に向けた患者教育と多職種連携の重要性
目次
横紋筋融解症の基礎知識:PTが押さえるべき病態と検査値
まず、横紋筋融解症の病態生理と、リハビリを進める上で特に重要な検査値について再確認しましょう。
- 病態: 骨格筋細胞の急速な崩壊により、筋細胞内容物(ミオグロビン、CK、カリウム、乳酸脱水素酵素(LDH)など)が血中に流出する状態。
- 主な原因: 過度の運動(特にエキセントリック収縮)、外傷、熱中症、薬剤(スタチン系など)、感染症、代謝性疾患など多岐にわたる。原因の特定は再発予防に重要。
- 臨床症状:
- 三主徴: 筋肉痛(特に大筋群)、筋力低下、褐色尿(ミオグロビン尿)
- その他: 全身倦怠感、筋硬直、腫脹、発熱など
- 注意: 症状が軽微な場合や非典型的な場合もある。
- 重篤な合併症:
- 急性腎障害(AKI): 最も注意すべき合併症。ミオグロビンが尿細管を閉塞・障害することで発症。
- 電解質異常(高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症)
- コンパートメント症候群
- 播種性血管内凝固症候群(DIC)
- PTが注目すべき検査値:
- CK(クレアチンキナーゼ): 筋逸脱酵素の代表。筋損傷の程度を反映する最も重要な指標。正常値は数十〜数百IU/Lだが、RMでは数千〜数万、時に数十万以上に急上昇する。CK値のピークアウトと十分な低下が運動療法開始の目安となる。
- 血中・尿中ミオグロビン: 早期に上昇するが半減期が短いため、CK値ほど持続的な指標にはならない。尿中ミオグロビン陽性は腎障害リスクを示す。
- 腎機能マーカー(BUN, Cr, eGFR): 急性腎障害の評価に必須。
- 電解質(K, P, Ca): 不整脈などリスク管理のため確認。
横紋筋融解症患者に対する理学療法評価のポイント
的確なリハビリテーションプログラム立案のためには、網羅的かつリスクを考慮した評価が重要です。
- 情報収集:
- 発症原因・誘因: 再発予防指導に不可欠。
- 現病歴: 発症時期、症状の経過、治療内容(特に輸液量)。
- 検査データ: CK値の推移(最高値、現在値、低下傾向)、腎機能、電解質。必ず最新のデータを確認する習慣を!
- 医師からの指示: 安静度、運動療法の可否、注意点。
- 薬剤情報: 原因薬剤の有無、腎毒性のある薬剤の確認。
- 既往歴・合併症: 腎疾患、心疾患など。
- 身体機能評価:
- バイタルサイン: 運動前後の血圧、脈拍、SpO2。異常値や変動に注意。
- 疼痛: 部位、程度(VASなど)、性質、動作時痛。過負荷の指標となる。
- 筋力: MMT(徒手筋力テスト)。ただし、急性期や疼痛が強い時期は無理に行わず、ADL動作での筋力低下を観察する。初期は低負荷での評価にとどめる。
- 関節可動域(ROM): 腫脹や疼痛による制限の有無。無理のない範囲で他動・自動運動を確認。
- 浮腫・腫脹: 部位、程度。コンパートメント症候群の兆候にも注意。
- 感覚: しびれや感覚鈍麻の有無(コンパートメント症候群や神経障害の鑑別)。
- 易疲労性: どの程度の活動で疲労感が出現するか。
- ADL: 基本動作(寝返り、起き上がり、座位、立位、移乗)、歩行、セルフケア。介助量や困難な動作を具体的に評価。
- バランス能力: 立位・歩行時の安定性。
- リスク評価:
- 尿の色: **最も重要なセルフモニタリング項目。**患者さん自身にも確認してもらう。褐色尿の出現・再燃は運動中止の絶対的指標。
- 自覚症状: 全身倦怠感、筋肉痛の増悪、息切れなど。患者さんの訴えを傾聴する。
- CK値: 医師と連携し、運動負荷決定の参考に。ただし、CK値だけにとらわれず、総合的に判断する。
時期別リハビリテーションプログラムの考え方と実際
リハビリテーションは、病期と患者さんの状態に合わせて段階的に進めます。
リハビリ中に筋細胞が回復しようとしている段階で筋肉に負荷が加わってしまうと、筋肉内のエネルギーが不足するケースがあるため注意が必要です。リハビリは、症状の程度に合わせて、負荷量を十分に考慮して行う必要があります。
【超急性期・急性期】(CK値が高値で不安定、腎機能障害リスクが高い時期)
- 目標: 全身状態の安定化、合併症予防、二次的合併症(廃用症候群、拘縮、褥瘡)の予防。
- 理学療法:
- 原則安静: 医師の指示に基づく安静度を遵守。
- 輸液管理の補助: 十分な水分摂取の重要性を説明(ただし、心不全や腎不全の程度により水分制限がある場合もあるため医師・看護師に確認)。
- ポジショニング・体位変換: 褥瘡予防、良肢位保持。
- 深呼吸訓練・排痰法: 呼吸器合併症予防。
- 関節可動域訓練(ROM-ex): 医師の許可のもと、他動運動を中心に、疼痛や筋緊張、バイタルサインを確認しながら愛護的に実施。自動運動や抵抗運動は原則禁忌。
- 下肢静脈血栓塞栓症(VTE)予防: 弾性ストッキング着用、間欠的空気圧迫法(IPC)、足関節の自動介助/他動運動(許可があれば)。
- 注意点: CK値を上昇させるような筋収縮を伴う運動は避ける。バイタルサイン、尿量、尿の色、自覚症状を厳重にモニタリング。
【回復期】(CK値がピークアウトし、低下傾向かつ安定。全身状態が安定し、医師から運動療法の許可が出た時期)
- 目標: 廃用症候群の改善、筋力・持久力の段階的向上、ADL自立、社会復帰準備。
- 理学療法:
- 運動療法開始の目安(あくまで目安、医師の判断が最優先):
- CK値がピーク値から大幅に低下し、安定している(例: 5000 IU/L以下、あるいは1000 IU/L以下など、施設や医師により基準は異なる)。
- 腎機能が安定または改善傾向。
- 褐色尿が消失している。
- 強い筋肉痛や倦怠感が軽減している。
- 運動療法の原則:
- 低強度、低頻度、短時間から開始。
- 漸進性の原則: 状態を見ながら徐々に負荷を上げていく。焦りは禁物。
- 個別性の原則: 患者さんの状態、年齢、活動レベルに合わせて調整。
- 具体的な運動メニュー例:
- ROM-ex: 自動介助運動から自動運動へ。最終域でのストレッチは慎重に。
- 筋力増強運動:
- 等尺性運動(軽い負荷)から開始。
- 自重での運動: 椅子からの立ち座り、軽いスクワット、踵上げ、膝つき腕立て伏せなど。回数やセット数を少なく設定。
- 軽い負荷でのレジスタンス運動: セラバンド、軽い重錘(例: 0.5kg〜)。エキセントリックな負荷は特に慎重に。
- 有酸素運動:
- 歩行訓練: 短距離から開始し、徐々に距離・時間を延長。平地歩行から開始し、状態に応じて階段昇降など。
- 自転車エルゴメーター: 低負荷、短時間から。
- 水中運動: 浮力により関節への負担が少ないが、実施環境が必要。
- ADL訓練: 基本動作、更衣、整容、入浴、家事動作など、生活に必要な動作の練習。
- バランストレーニング: 必要に応じて実施。
- 運動療法開始の目安(あくまで目安、医師の判断が最優先):
- 注意点: 運動前後のバイタルサイン、尿の色、筋肉痛、倦怠感の確認を徹底。患者さん自身にもセルフモニタリングを指導。
【維持期・退院後】
- 目標: 発症前の活動レベルへの安全な復帰、再発予防、運動習慣の確立。
- 理学療法:
- 外来リハビリや訪問リハビリでのフォローアップ。
- 運動プログラムの調整、セルフエクササイズの指導。
- スポーツや高強度活動への復帰支援(医師と連携し、段階的に)。
- 再発予防のための生活指導(後述)。
運動療法実施における最重要ポイント:リスク管理
横紋筋融解症のリハビリで最も重要なのは、安全に、再発・
- CK値と運動負荷の関係性:
- CK値はあくまで指標の一つ。数値だけに囚われず、臨床症状(疼痛、倦怠感、尿の色)、バイタルサイン、患者さんの反応を総合的に評価して負荷を決定・調整する。
- 一般的にCK値が低下・安定してから運動を開始するが、「〇〇IU/L以下なら絶対安全」という明確なカットオフ値はない。医師との密な連携が不可欠。
- 運動後にCK値が一時的に上昇することもあるが、大幅な上昇や症状の悪化がなければ、負荷を下げて継続する場合もある(医師の判断による)。
- 運動中止・負荷軽減の基準:
- 褐色尿(コーラ色、赤褐色)の出現・再燃 → 即時中止、医師へ報告
- 安静時または運動中の強い筋肉痛の出現・増悪
- 異常な全身倦怠感、疲労感の持続
- 運動中の動悸、息切れ、めまい、冷や汗
- バイタルサインの異常(過度な血圧上昇・低下、頻脈など)
- CK値の再上昇(特に急激な上昇)→ 医師に報告・相談
- 過負荷を避けるためのモニタリング:
- 運動前後のバイタルサイン測定
- 自覚的運動強度(RPE, ボルグスケール)の活用(例: 「楽である」〜「ややきつい」程度から開始)
- 運動後の筋肉痛の程度と持続時間を確認(翌日以降も強い痛みが残る場合は過負荷の可能性)
- 尿の色のセルフモニタリング指導
- 脱水予防:
- 運動前・中・後の適切な水分補給を指導。
- 特に暑熱環境下での活動には注意喚起。
患者教育と再発予防
横紋筋融解症は再発のリスクがあるため、患者さん自身が病態を理解し、自己管理できるよう支援することが重要です。
- 病態とリハビリの必要性の説明: なぜリハビリが必要なのか、なぜ焦ってはいけないのかを分かりやすく説明し、モチベーションを高める。
- セルフモニタリング指導:
- 尿の色の確認: 最も重要。正常な色と異常な色(褐色尿)を見分けられるように具体的に説明。
- 体調の変化(筋肉痛、倦怠感)に注意するよう指導。
- 生活習慣指導:
- 運動: 急激な運動負荷の増加を避ける、ウォーミングアップ・クールダウンの実施、体調不良時の休養。
- 水分補給: 日常的な水分摂取の習慣化。
- 暑熱環境: 高温多湿下での長時間の活動を避ける、適切な休憩と水分・塩分補給。
- 薬剤・サプリメント: 医師に相談なく安易に服用しない。
- 段階的な活動再開の重要性: 退院後、元の生活や仕事、スポーツに復帰する際も、焦らず段階的に負荷を上げていくことの重要性を繰り返し伝える。
まとめ:自信を持って横紋筋融解症のリハビリに関わるために
横紋筋融解症のリハビリテーションは、筋損傷と腎機能障害のリスクを常に念頭に置いた、慎重なアプローチが求められます。若手PTにとっては、CK値の解釈や運動負荷の設定に難しさを感じる場面も多いでしょう。
しかし、基本的な病態を理解し、評価のポイントを押さえ、リスク管理を徹底すれば、自信を持って患者さんに関わることができます。
- CK値だけに頼らず、臨床症状とバイタルサインを総合的に評価する。
- 低強度・低頻度から開始し、焦らず段階的に負荷を上げる。
- 尿の色は最も重要なモニタリング項目。患者教育を徹底する。
- 医師をはじめとする多職種との連携を密にする。
これらの点を意識し、日々の臨床経験を積み重ねていくことが、専門性を高める鍵となります。
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